薬局を法人化するタイミングと判断基準
- ichikawa53
- 8月20日
- 読了時間: 3分

消費税の免税期間・税負担・社会保険・信頼性まで整理
薬局の開業形態は「個人事業主」と「法人」の2パターンがあります。一般的な業種では、まず個人事業として小規模に始め、売上が拡大した段階で法人化するケースが多いですが、薬局業界では事情が少し異なります。ここでは、法人化を検討する際の3つの判断基準—税金・社会保険・信頼性—を整理します。
1.税金の違いを押さえる
薬局の個人事業主は、事業税において他業種と比べ優遇される部分がありますが、事業税の割合は数%程度で、全体の税負担に与える影響は小さいといえます。重要なのは、法人税と所得税の税率構造の違いです。
所得税は累進課税で、所得が増えるほど税率が高くなります(最大45%+住民税10%)。
法人税は中小企業であれば実効税率が約30%程度に抑えられ、税率の変動幅は少なめです。
また、キャッシュフローの観点では次のような違いがあります。
法人は赤字であっても、毎年最低限の法人住民税(均等割)を納付する必要があります。
個人事業主は赤字であれば所得税・住民税は発生しませんが、社会保険料支払基金からの調剤報酬入金時に源泉所得税が差し引かれます。高額薬剤を扱った場合、技術料以上の金額が引かれることもあり、一時的に資金繰りが悪化する要因になります。もっとも、これはあくまで仮払いの性質であり、確定申告で精算され、納付額が減るか還付されます。
2.社会保険加入義務の違い
個人事業主の場合、従業員が一定数以下であれば社会保険(厚生年金・健康保険)に加入しなくてもよいケースがあります。一方、法人は役員1人だけの会社であっても社会保険加入が義務となります。保険料負担は増えますが、将来の年金受給額や医療保険の保障内容が充実するという側面もあります。
3.信頼性の差
法人化は、税金や社会保険だけでなく対外的な信頼性にも直結します。金融機関からの融資審査では法人の方が信用度が高い傾向があり、資金調達が有利になる可能性があります。また、大手調剤チェーンからの切り離し薬局のM&Aにおいて、譲渡先が法人格を求めるケースもあります。
4.薬局業界における法人化の実情
一般的な業種では「個人事業 → 消費税が課税される売上規模に達したら法人化」という流れが王道ですが、薬局業界では個人事業主のメリットは比較的少ないともいえます。さらに、個人事業主から法人化する際には、薬局の開設許可や施設基準の再申請など、行政手続きを再度踏む必要があります。これには時間とコストがかかるため、開業当初から法人格で運営するケースが多いのが実情です。実際、私の顧問先の9割以上は開業時から法人としてスタートしています。
まとめ
薬局を法人化するかどうかは、税負担の仕組み、社会保険の加入義務、対外的な信頼性といった要素を総合的に検討する必要があります。開業形態によって得られるメリット・デメリットは経営者の状況によって異なります。個人事業主として始めることで柔軟に動ける場合もあれば、最初から法人化して手続きを一本化した方が効率的な場合もあります。将来の事業規模や資金計画を踏まえ、自社にとって最適なタイミングを見極めることが大切です。


