top of page

お問い合わせ

お知らせ・ブログ

HYUGAのMBOから考える、これからの中小薬局経営 -大きくなることより、変わり続けられること―

1 日前
読了時間: 7分

2026年9月25日、HYUGA PRIMARY CAREは、経営陣が参加する買収「MBO」によって、株式の非公開化を目指す方針を発表しました。公開買付けなどの手続きが進めば、同社は上場廃止となる予定です。〔1・2〕

「上場廃止」という言葉には、どこか後ろ向きな印象があるかもしれません。しかし、私は今回の決断を、前向きに受け止めています。

注目したいのは、上場を続けること自体を目的とせず、これからの事業に合った経営の形を選び直そうとしていることです。

この話は、上場とは縁のない中小薬局にとっても、決して他人事ではありません。


上場を維持する負担と、変化に対応するための身軽さ

HYUGAは、非公開化によって、情報開示や管理部門の維持など、上場に伴う費用や経営上の負担を軽減できると説明しています。ただし、これは同社が挙げる副次的な効果であり、今回のMBOを単に「上場コストが高すぎたから」と捉えるのは正確ではありません。〔1〕

会社説明の中心にあるのは、短期的な業績や株価への影響を意識することで、出店や人材獲得など、中長期的な成長に必要な投資が制約されているという認識です。〔1〕

ここから私が考えたいのは、経営における「身軽さ」です。

昨今のような変化が激しく、先を見通しづらい時代には、判断を間違えることだけでなく、判断を先送りし続けることも、大きなリスクになり得ます。

例えば、在宅の受け入れを増やすために、人を採用するのか。今ある業務を見直すのか。外部と連携するのか。必要性を感じていても、決められないまま時間が過ぎれば、受け入れの機会を逃したり、既存の職員に負担が集中したりするかもしれません。

特に在宅分野では制度の変化も激しく、それに応じた見直しも必要です。実際にHYUGAは、2026年の診療報酬改定に関する通知を踏まえて事業への影響評価を更新し、業務効率化や教育研修、在宅対応の強化について方針を示しています。〔3〕

もちろん、上場企業だから判断が遅く、非上場企業なら速いという単純な話ではありません。

大切なのは、今の経営の仕組みが、必要な判断と実行を後押ししているのか。それとも、妨げているのかということです。

ここでいう身軽さとは、必要な管理や確認を省くことではありません。事業を進めるうえで必要な判断ができ、その判断を実行に移せる状態をつくることです。

これまで役立ってきた仕組みでも、事業や環境が変われば、見直した方がよいことはある。そう考えると、上場という形にこだわらず、事業に合う経営体制を選び直すことには、十分な意味があると思います。


「大きいこと」と「強いこと」は、同じではない

ここで、一つ区別しておきたいことがあります。

HYUGAの非公開化は、事業の縮小を意味するものではありません。開示資料では、外部の経営資源を活用した組織強化やM&Aなど、さらなる成長に向けた方針が示されています。〔1〕

したがって、今回の話から「大きな会社は不利だから、小さくなるべきだ」と結論づけることはできません。

私が中小薬局の経営に引き寄せて考えたいのは、規模や形式を守ることより、自社に合った経営の形を選ぶことが大切ではないかという点です。

店舗数が増えれば、仕入れ量をまとめたり、店舗間で人員を融通したりする余地は生まれるでしょう。しかし、その利点を生かすには、複数店舗を動かすための仕組みが必要です。

仕入れで得られる利益以上に、調整や管理の負担が増えていたらどうでしょうか。店舗は増えても、経営者がすべての問題に対応しなければならない状態が続くなら、本当に経営が強くなったと言えるでしょうか。

私自身、AIの活用や、一人で事業を営む「ソロプレナー」という働き方を考えるたびに、事業の力を人数や規模だけで測ることに疑問を持つようになりました。

もちろん、薬局と、少人数で完結する他の事業を同じようには扱えません。それでも、「人数や店舗数を増やさなければ、提供できる価値も増やせない」と、最初から決めつける必要はないと思います。

規模の経済がなくなったというよりも、規模のメリットを生かす力がなければ、大きさそのものが負担になる。私はそのように捉えています。


店舗が増えると、お金以外のところで経営が苦しくなる

私のお客様にも、複数店舗を経営されている方々がいます。その中には、事業の拡大に人材や管理体制の整備が追いつかず、経営の立て直しが必要になるケースもあります。

問題は、出店資金や借入返済だけではありません。

1店舗であれば、経営者自身が現場にいることで、職員の様子や業務の滞りに気づけたかもしれません。しかし、複数店舗になれば、同じ方法ですべてを把握するのは難しくなります。

例えば、ある店舗では人手が足りず、別の店舗では業務に余裕がある。それでも、その状況が共有されず、採用費や残業代だけが増えていく。現場に判断を任せられず、ちょっとしたことまで経営者の返事待ちになる。

こうした状態では、「店舗数を増やせば効率がよくなる」とは言えません。

私が気にするのは、事業の大きさに、経営の仕組みが追いついているかです。

店舗別の数字が見えているか。現場の課題が経営者に届いているか。任せられる人が育っているか。経営者が動かなくても解決できることが増えているか。

この準備がないまま規模だけが大きくなると、経営者の目が届かない範囲が広がり、かえって経営効率が落ちてしまうことがあります。

もちろん、その壁を乗り越え、さらに成長していく会社もあります。必要なのは、拡大を否定することではなく、今の自社が、その拡大を支えられる状態にあるかを見極めることです。

売上や店舗数だけでなく、それを支える人と仕組みまで含めて見る。そこを抜きにして、成長の良し悪しは判断できないと考えています。


縮小も、経営を続けるための選択肢になる

準備が十分でない場合には、私は、いったん拡大を止めることや、規模を見直すことを勧める場合もあります。

それは、「小さい方がよい」と考えているからではありません。

今ある人材、資金、管理体制を踏まえたとき、抱えている事業すべてを維持しようとすることが、会社全体を苦しくしていないか。その点を確認したいからです。

新規出店を止めて、既存店舗の改善を優先する。店舗の譲渡も含めて、経営資源を集中させる。反対に、管理者の育成や業務の標準化に投資し、もう一段大きな組織を目指す。

どれを選ぶかは、自社の状況によって変わります。規模を見直す場合にも、患者へのサービスの継続や職員への影響を含めて、慎重に考えなければなりません。

大きくすることも、小さくすることも、経営の目的ではなく手段です。

「ここまで増やしたのだから、減らせない」「周りが出店しているから、自分も増やさなければならない」。その気持ちが判断の中心になっていないかは、ときどき問い直したいところです。

これまで積み上げてきたものがあるからこそ、変える決断は簡単ではありません。それでも、今の形を維持することと、事業を長く続けることが両立しなくなっているなら、形を見直す必要があります。


変わらないために、変わっていく

HYUGAの決断が、どのような成果につながるのかは、これから確かめられるものです。それでも私は、将来の事業に必要な形を考え、上場という大きな選択まで見直そうとする姿勢を、好意的に受け止めています。

中小薬局が学びたいのは、MBOという手法そのものではありません。

常に自社の人材、資金、管理体制を見つめ、周囲の環境と照らし合わせながら、経営の形を選び直していくことです。

地域の患者に必要とされる薬局であり続けたい。職員が安心して働ける会社でありたい。経営者自身も、無理を重ねず事業を続けていきたい。

そうした目的を守るために、今の店舗数や組織、仕事の進め方を変える必要があるなら、それは後退とは限りません。

変わらないために、変わっていく。

守るべきものは、これまで築いてきた「形」なのか。それとも、その形を通じて実現したかった「役割」なのか。

HYUGAのMBOは、中小薬局の経営にも、その問いを投げかけているように思います。


※本稿は2026年9月28日時点の公表資料に基づく経営上の考察です。上場廃止が完了したことを示すものではなく、買付価格の妥当性や株式売買の判断とは分けて論じています。


参考資料・URL

〔1〕HYUGA PRIMARY CARE「MBOの実施及び応募の推奨に関するお知らせ」2026年9月25日公表。非公開化の背景、成長投資、組織強化、上場維持負担に関する説明を参照。特に11〜12頁、17〜18頁。日向小学校https://www.hyuga-primary.care/ja/ir/news/auto_20260914535592/pdfFile.pdf

〔2〕「株式会社JG44によるHYUGA PRIMARY CARE株式会社(証券コード:7133)の株券等に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」2026年9月25日公表。公開買付けの概要、非公開化に向けた取引内容を参照。日向小学校https://www.hyuga-primary.care/ja/ir/news/auto_20260924539324/pdfFile.pdf

〔3〕HYUGA PRIMARY CARE「2027年3月期第1四半期決算説明資料」2026年8月12日公表。4頁の「2026年診療報酬改定の影響」と同社の対応方針を参照。日向小学校https://www.hyuga-primary.care/ja/ir/news/auto_20260807515630/pdfFile.pdf

bottom of page