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大手薬局の「約9割が減益・赤字」をどう読むか――売上増だけでは見えない、薬局の収益構造

18 時間前
読了時間: 7分

2026年8月18日、PHARMACY NEWSBREAKは、上場主要チェーンの調剤関連事業について、約9割が減益または赤字になったと報じました。対象は2月期・3月期決算の企業で、営業損益を開示した15社のうち13社が該当しています。(ファーマシーニュース)


「大手でもこれほど厳しいのか」と感じた薬局経営者もいるのではないでしょうか。

ただ、このニュースを自社の経営に生かすには、もう一歩、数字の中身に踏み込む必要があります。

私が税理士として注目したのは、売上が増えているにもかかわらず、利益が減っている企業があることです。

売上が伸びていれば経営は順調なのか。技術料単価が上がっていれば安心できるのか。各社の決算資料を手がかりに、薬局の数字をどう読むべきか考えてみます。


「減益」と「赤字」は、分けて読む

最初に確認したいのは、今回の報道が「薬局の約9割が赤字」という意味ではないことです。集計対象は一定の上場企業であり、「減益」と「赤字」を合わせた割合です。全国の薬局を調査した結果ではありません。(ファーマシーニュース)

例えば、前年に1,000万円あった利益が800万円になれば、20%の減益ですが、800万円の黒字であることに変わりはありません。「前年より利益が減った」という変化と、「利益がマイナスになった」という状態は、区別する必要があります。


さらに、会社全体の損益なのか、薬局事業の損益なのかにも注意が必要です。

ファーマライズホールディングスの2026年6~8月期では、連結全体の最終損益は3,600万円の赤字でした。一方、調剤薬局事業の利益は、前年同期から減少したものの、1億5,800万円の黒字です。「連結最終赤字」と「薬局事業の赤字」は同じではありません。

これは報道を楽観的に読み替えるためではなく、どの範囲の、どの段階の利益を見ているのかを取り違えないための確認です。


売上は増えている。それでも利益が減っている

各社の公開資料から、薬局関連事業の数字を見てみましょう。ここでは、8月の集計後に決算を発表したアイン、ファーマライズも加え、4社を取り上げます。

企業・対象事業

対象期間

売上高・前年同期比

事業別営業利益・前年同期比

メディカルシステムネットワーク/地域薬局ネットワーク事業

2026年4~6月

321.83億円/+7.8%

8.57億円/▲19.5%。

HYUGA PRIMARY CARE/在宅訪問薬局事業

2026年4~6月

22.98億円/+24.5%

1.79億円/+13.7%。

アインHD/ファーマシー事業

2026年5~7月

1,512.88億円/+39.3%

51.99億円/+27.2%。

ファーマライズHD/調剤薬局事業

2026年6~8月

144.74億円/+2.3%

1.58億円/▲32.6%。

※各社の決算短信・決算補足資料から作成。利益は営業利益ベースで、営業利益と調整されるセグメント利益を含みます。全社費用の配分や事業範囲は各社で異なり、冒頭の15社集計を再現したものではありません。

この4社では、いずれも売上が増加しています。しかし、利益の動きは同じではありません。


減益企業では、何が起きているのか

ファーマライズは、M&Aによる店舗数の拡大が増収に寄与した一方、調剤報酬改定、薬価改定に伴う仕入れ環境の変動、処方日数の長期化によって原価率が上昇したと説明しています。売上を押し上げる要因と、利益を押し下げる要因が、同時に存在しているわけです。

メディカルシステムネットワークにも、注目したい数字があります。同社の地域薬局部門の全店集計では、処方箋枚数は前年同期比2.8%増、処方箋単価は3.2%増、技術料単価も1.1%増でした。

この薬局部門の指標と、表に示した地域薬局ネットワーク事業の利益では集計範囲が異なるため、直接結び付けて減益の原因を断定することはできません。それでも、「処方箋が減ったから」「技術料単価が下がったから」という説明だけでは、決算を十分に読み解けないことが分かります。

枚数や単価を確認した先に、どれだけ費用がかかり、いくら利益が残ったのかまで見る必要があります。


増益企業も「利益率まで改善した」とは限らない

逆に、増益という結果だけで判断することもできません。

アインのファーマシー事業は、大幅な増収増益でした。同社は、さくら薬局グループの連結寄与と、処方箋枚数の堅調な推移を増収要因として説明しています。一方、営業利益率は前年同期の3.8%から3.4%へ低下しています。

つまり、「事業全体で得た利益は増えた」という事実と、「売上に対して利益が残る割合は下がった」という事実が、同時に成り立っています。

ただし、M&Aによって事業の構成自体が変わっているため、この利益率の低下を、そのまま既存店の収益力低下と決め付けることもできません。買収した店舗の寄与と、従来からある店舗の変化を分けて確かめる必要があります。

これは中小薬局でも同じです。2店舗から3店舗に増やして会社全体の利益が増えたとしても、既存の2店舗はどうなったのか、新たな1店舗がどれだけ利益を生んだのかは、別の問いです。

会社全体の増収増益だけでは、各店舗の状態までは分かりません。


改定の影響を考えるなら、対象期間もそろえる

もう一つ、今回の決算を読むうえで外せないのが、集計期間の違いです。

2026年の調剤報酬改定は6月に行われています。そのため、4~6月期には改定後の実績が1か月分、5~7月期には2か月分、6~8月期には3か月分含まれます。4月に行われた薬価改定とは、時期を区別して考える必要があります。

同じ「第1四半期」でも、改定後の実績が含まれる月数はそろっていません。先ほどの表の増減益率を、そのまま「改定への対応力の差」と読むことはできないのです。

また、会社が改定を減益要因に挙げていても、減益額のすべてが改定によるものとは限りません。自社を分析するときも、前年同月比を併せて見ながら、営業日数、処方内容、人員配置、新規出店など、比較条件の違いを確かめたいところです。


これからの鍵は、人件費をどう生かすか

ここからは、今回の決算を踏まえた私自身の見方です。

各社の業績には、それぞれの戦略や投資判断が反映されているため、減益の理由を一つにまとめることはできません。ただ、足元では全国の賃金統計や消費者物価指数にも上昇が見られ、経営を考えるうえで、費用の増加を無視できない環境にあると考えています。

そのなかで、中小・小規模の薬局の利益や資金繰りを左右する大きな要素の一つは、人件費をいかに効率よく生かせるかになると、私は見ています。

これは、単に給与を抑えたり、人を減らしたりするという意味ではありません。

薬剤師が担うべき業務と、仕組みや機器で効率化できる業務を整理し、限られた人員と時間を、患者対応や地域連携などに振り向ける。人件費の金額だけでなく、その人件費でどのような仕事ができているのかを見直す必要がある、ということです。

私が考える「対物から対人へ」の転換も、業務内容を変えるだけでは十分ではありません。それを支える人員配置や、利益が残る運営の仕組みまで変えてこそ、経営として持続できるのだと思います。

一方、アインは、処方日数の長期化に伴い、処方箋枚数の微減傾向が続いているとも説明しています。(アイン薬局 お客さまサイト)

こうした動きを見ると、処方箋枚数の自然な増加や、従来どおりの薬価差益を前提に、今後の経営を組み立てることには慎重であるべきだと感じます。何によって収益を確保し、そのために人の時間をどこへ使うのか。その組み合わせを考えることが、これまで以上に重要になるのではないでしょうか。


「水車小屋経営」のままでよいのか

各社のIR資料は、目先の増減益だけでなく、どこへ投資し、何を次の収益源にしようとしているのかを読む材料でもあります。

例えば、HYUGAは在宅訪問薬局に加え、中小薬局への運営支援や高齢者施設の運営にも取り組んでいます。こうした事業展開からも、薬局を起点に、どこまで役割と収益機会を広げようとしているのかがうかがえます。


大手の取り組みを、そのまま中小薬局がまねる必要はありません。しかし、業界の変化を踏まえて、自社の経営の前提を見直す必要はあると思います。

医療機関から処方箋が流れてくることを前提に、それを受けて日々の業務を回す。水が流れてくれば水車が回るような、いわば「水車小屋経営」です。

立地や医療機関との関係が重要であることを否定するつもりはありません。ただ、その流れに依存し、従来のやり方を続けるだけで十分な利益を確保できるほど、今の薬局経営は容易ではなくなっているのではないでしょうか。

売上をどう増やすかだけでなく、何で利益を生み、そのために人とお金をどこへ振り向けるか。

今回のニュースを「大手も苦しい」で終わらせず、自社の経営の仕組みを見直すきっかけにしたい。各社の決算を読み、私はその必要性を改めて感じました。


本稿は、2026年9月21日までに確認した公開資料に基づいています。

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