在宅医療を広げたい薬局が直面する「人を雇う難しさ」
- 4月20日
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在宅医療に力を入れていきたい。そう考える調剤薬局は、ここ数年で確実に増えているように感じます。
外来だけに依存するのではなく、地域の高齢化や医療ニーズの変化に対応していくうえで、在宅への取り組みは今後ますます重要になるでしょう。実際、国の制度設計を見ても、薬局には対人業務の強化や地域医療への関与が求められています。その流れの中で、在宅医療へ踏み出そうとすること自体は、ごく自然な経営判断であると思います。
しかし、現場で実際に支援していると、在宅を広げるうえで大きな壁になるのが「人を雇うことの難しさ」です。設備投資や営業の問題もありますが、それ以上に深刻なのが、人材の確保と定着ではないでしょうか。
在宅業務には、外来とは異なる負荷がある
在宅業務は、単に薬を届ける仕事ではありません。患者様やご家族、訪問診療医、看護師、ケアマネジャーなど、多くの関係者との連携が必要になります。スケジュール調整、疑義照会、緊急対応、服薬状況の確認、残薬管理など、業務は多岐にわたります。
さらに、在宅の現場では予定通りに進まないことも少なくありません。患者様の体調変化、退院対応、処方変更、施設側との連携など、その都度柔軟な対応が求められます。つまり、在宅を担う薬剤師には、通常の外来業務とは異なる性質の負荷がかかるのです。
この点を経営者側が「在宅は今後必要だから」と前向きに捉えていたとしても、働く側が同じように受け止めるとは限りません。
オンコール対応という文化の壁
特に採用面でネックになりやすいのが、オンコール対応です。
調剤薬局業界は、もともと病院のように当直や夜間待機が当たり前の業界ではありません。多くの薬剤師は、日中の外来対応を中心とした働き方を前提にキャリアを築いてきました。そのため、「在宅に取り組む薬局で働く」ということは理解して入社したとしても、実際にオンコール対応が発生するとなると、心理的なハードルを感じる方は少なくありません。
実際、ようやく採用できた薬剤師であっても、「薬剤師でもオンコールを受けなければならないのか」という点に馴染めず、退職に至ってしまったケースを見聞きすることがあります。経営者としては、在宅を回す以上、一定の待機体制が必要になるのは当然という感覚かもしれません。しかし、現場で働く人にとっては、それが“想像していた働き方と違う”という話になりやすいのです。
ここには、制度上必要とされる役割と、業界内でこれまで一般的だった働き方とのズレがあります。
条件を良くすれば解決するとは限らない
では、手当を厚くすれば解決するのか。もちろん待遇面の整備は大切ですし、オンコール手当や緊急出動時の評価を明確にすることは必須でしょう。
ただ、それだけで十分とは言い切れません。なぜなら、問題は金額だけではなく、生活への影響や精神的な拘束感にもあるからです。休日でも電話が鳴るかもしれない、夜間に呼び出されるかもしれない、家族との時間に影響が出るかもしれない。こうした負担感は、単純に手当の多寡だけでは割り切れない面があります。
特に、子育て世代や家庭との両立を重視する人材にとっては、この点が非常に大きな判断材料になります。つまり、在宅対応人材の採用は、一般的な求人条件の比較だけでは語れない難しさがあるのです。
経営者が持つべき視点
在宅を広げたい薬局経営者は、「人が採れない」のではなく、「その働き方に納得して働ける人が限られる」という前提で考える必要があります。
重要なのは、求人票に在宅ありと書くだけではなく、実際の業務内容やオンコール体制、当番頻度、緊急時のバックアップ、手当の考え方まで、できるだけ具体的に示すことです。入社後のギャップが大きいほど、せっかく採用できた人材が定着しにくくなります。
また、在宅を特定の数名に依存しすぎる体制も危険です。一部の担当者に負荷が集中すれば、疲弊や不満が蓄積し、結果として離職リスクが高まります。在宅を伸ばすのであれば、売上だけでなく、人員配置や運用体制まで含めて設計しなければなりません。
在宅は「取れば伸びる」ほど単純ではない
在宅医療は、今後の薬局経営において重要なテーマであることは間違いありません。しかし、在宅の売上を増やすことと、それを持続可能な形で運営することは別の話です。
特に人材面では、調剤薬局業界にオンコール文化が十分根付いていない以上、採用や定着に苦労するのはある意味当然ともいえます。在宅に力を入れたいのであれば、制度や売上の話だけではなく、「誰が、どのように、その負担を担うのか」という現実に向き合う必要があります。
在宅は、患者様にとっても地域にとっても意義のある取り組みです。だからこそ、理想論だけで進めるのではなく、人を雇う難しさも含めて、堅実に体制を作っていくことが大切なのではないでしょうか。


