top of page

お問い合わせ

お知らせ・ブログ

在宅薬局の経営で考えるべき「強みは誰に帰属するのか」という問題

  • 4月27日
  • 読了時間: 5分

調剤薬局が在宅業務を広げていくうえで、経営者が考えなければならないことの一つに、「その経営的な優位性が誰に帰属するのか」という問題があります。

少し難しい言い方になりますが、要するに「その薬局が選ばれる理由は、会社そのものにあるのか、それとも特定の薬剤師個人にあるのか」という話です。


これまでの調剤薬局、とくに門前薬局ビジネスにおいては、立地が非常に大きな意味を持っていました。

病院やクリニックの前に店舗を構えることができれば、一定数の処方箋が見込める。もちろん、接遇や薬剤師の対応力も重要ではありますが、経営上の重要成功要因、いわゆるKSFは「どこに薬局を出すか」に大きく左右されていたといえます。

そのため、ある意味では、薬剤師を配置できれば店舗が回るという側面もありました。


少し極端な言い方かもしれませんが、新卒で薬科大学を出たばかりの薬剤師が、入社して1か月も経たないうちに管理薬剤師になることも、門前薬局の世界では珍しいことではありませんでした。実際、私自身にもその経験があります。

もちろん当時は当時で必死でしたし、未熟なりに現場を回していたわけですが、それでも薬局の売上の大部分は、薬剤師個人の能力だけで成り立っていたわけではありません。立地、処方元との距離、患者さんの動線といった、店舗に紐づく要素が大きかったのです。


しかし、在宅薬局はこの構造が大きく変わります。

在宅業務は、必ずしも病院の目の前に薬局がある必要はありません。車で訪問することも多く、一定のエリア内であれば、薬局の場所そのものの重要性は相対的に下がります。

その一方で、薬剤師個人の能力や経験に大きく依存する場面が増えていきます。

医師や看護師、ケアマネジャーとの連携。施設や患者さん家族とのコミュニケーション。臨時対応。オンコール。薬の管理だけではなく、現場で起きるさまざまな問題への対応力。

これらは、単に薬剤師免許を持っているだけで、すぐにできるものではありません。

在宅業務では、薬剤師としての知識に加えて、現場判断力、調整力、責任感、場合によっては精神的なタフさも求められます。つまり、在宅薬局の売上は、店舗の場所ではなく、そこで働く薬剤師の能力やキャリアに強く依存しやすいのです。


ここに、経営上の難しさがあります。

門前薬局であれば、店舗を増やし、そこに薬剤師を配置することで、ある程度売上を積み上げていくという考え方ができました。もちろん現在ではそれも簡単ではありませんが、少なくともビジネスモデルとしては理解しやすいものでした。

一方、在宅業務では「人を置けば売上が立つ」という単純な話にはなりません。

売上を作るのは、雇用した薬剤師です。しかも、その薬剤師が医療機関や介護関係者との信頼関係を作り、現場対応を積み重ねることで、少しずつ在宅業務が広がっていきます。


そうなると、経営者としては非常に悩ましい問題が出てきます。

その薬剤師が辞めたらどうなるのか。

今の時代、薬剤師は転職しようと思えば比較的転職しやすい職種です。もちろん地域差や条件差はありますが、少なくとも「この会社を辞めたら仕事がない」という状況ではありません。

もし在宅業務のノウハウや取引先との関係性が、特定の薬剤師個人に集中していた場合、その人が退職した瞬間に、会社としての強みが大きく失われる可能性があります。


これは経営者にとって、かなり大きなリスクです。

自社の社員ではあるものの、その人の能力や人間関係に売上が依存している。会社としては在宅業務を伸ばしているつもりでも、実態としては「優秀な薬剤師個人の力で売上が立っているだけ」という状態になっているかもしれません。


この場合、会社の中に知見や経験が蓄積されにくくなります。

もちろん、マニュアルを作る、情報共有をする、チーム制にする、といった工夫は必要です。しかし、在宅の現場ではマニュアル化しきれない判断も多くあります。

だからこそ、在宅薬局を伸ばしていくのであれば、経営者は「人に依存する業務である」という前提を受け入れなければなりません。

特に、非薬剤師の経営者が薬局で在宅業務を増やしていこうとする場合、この点はかなり重要です。

現場に出る薬剤師の苦労や負担を理解せず、単に「在宅は伸びるらしい」「外来が厳しいから在宅を増やそう」と考えてしまうと、現場との温度差が生まれます。

在宅業務には、オンコール対応もあります。予定通りに終わらないこともあります。患者さんやご家族、施設、医師、看護師、ケアマネジャーなど、多くの関係者との調整も必要になります。

これを担う薬剤師に対して、十分な評価や報酬、働きやすい仕組みを用意できなければ、在宅業務を継続的に伸ばすことは難しいでしょう。

言い換えれば、在宅薬局を本気で伸ばすのであれば、従業員ファーストの経営になることを覚悟しなければなりません。


ここでいう従業員ファーストとは、単に従業員に甘くするという意味ではありません。

在宅業務を支える薬剤師が、安心して働ける体制を整えることです。

オンコールの負担を一人に集中させない。頑張りに対して適切に評価する。現場の判断を尊重する。属人的なノウハウを会社として共有できる仕組みを作る。採用だけでなく、定着や育成にも投資する。

こうした取り組みがなければ、在宅業務は一時的に伸びたとしても、どこかで限界が来る可能性があります。


これからの薬局経営では、単に「店舗を増やす」「薬剤師を採用する」という発想だけでは不十分です。

在宅業務を伸ばすのであれば、会社の強みをどこに作るのかを考える必要があります。

特定の薬剤師個人に依存するのか。チームとして対応できる体制を作るのか。会社として知見を蓄積し、再現性のある仕組みにしていくのか。

この設計をしないまま在宅に進むと、売上は増えているのに、経営者の不安も現場の負担も増えていくという状態になりかねません。


在宅は、これからの薬局経営において重要な選択肢の一つです。

しかし、それは単なる売上拡大策ではありません。

「人に依存する仕事」を、どのように会社の力に変えていくのか。

在宅薬局の経営では、この問いに向き合うことが避けられないのだと思います。

bottom of page