薬局開業で税理士を選ぶとき、「規模」だけで判断していませんか?
- 2 日前
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調剤薬局の開業を検討されている方から、こんなご相談をいただくことがあります。
「税理士は大手の法人と個人事務所、どちらがいいのでしょうか?」
税理士選びは、開業後の経営を左右する重要な判断です。それだけに、しっかり比較して決めたいとお考えの方も多いと思います。
私自身、従業員数百人規模の大手税理士法人での勤務を経て、50人規模の税理士法人で部長を務めた経験があります。その後、独立して薬局専門の税理士として活動しています。両方の世界を内側から見てきた立場として、規模の違いが実務にどう影響するかを率直にお伝えしたいと思います。
税理士業界は実は「大規模事務所」が少ない
まず、税理士業界全体の構造についてお話しします。
税理士事務所の多くは、実は小規模です。従業員が10名を超える事務所は業界全体の中でも決して多数派ではなく、1人〜数名で運営している事務所が相当数を占めています。
これは、税理士という資格が比較的独立しやすいことと関係しています。また、税理士を目指す方には、社会人として実務経験を積んでから資格を取得するケースも多く、もともと独立志向の強い方が集まりやすい業界でもあります。
一方で、大手と呼ばれる税理士法人も確かに存在し、それぞれに特色があります。どちらが「正解」かではなく、ご自身の状況に合っているかどうかが重要です。
大人数の税理士法人の強みと、見落とされがちな注意点
組織力があることは確か
大規模な税理士法人には、組織としての厚みがあります。相続税・事業承継・組織再編・M&Aといった高度な論点に対応できる専門スタッフが社内にいること、複数法人をまたぐ複雑な案件にも対応できること、担当者が不在でもバックアップ体制があることなど、組織ならではのメリットは確かに存在します。
「担当者が誰か」は必ず確認を
ただし、大規模事務所を選ぶ際に見落とされがちな点があります。それは、「実際に担当するのは誰か」という問題です。
税理士業界では、日常的な記帳確認や月次の巡回担当をするのに、税理士資格が必須というわけではありません。薬局では、調剤・投薬には薬剤師資格が必要であり、無資格者が前面に立つことは考えにくい業界です。しかし税理士業界では、窓口や担当業務を担うスタッフが税理士資格を持っていないケースも珍しくありません。新規開業の担当者が税理士ではない、ということもあります。
それ自体が直ちに問題というわけではありませんが、「誰がどのレベルの判断をしているか」は把握しておく必要があります。
契約後に担当が変わることへの理解
開業当初は代表税理士が前面に出て丁寧に対応していたのに、契約後しばらくすると若い職員が中心になった、というケースに不満を感じる経営者もいます。
大規模事務所のビジネスモデルを考えれば、これはある意味避けがたい側面があります。代表税理士がすべての顧問先に毎月直接関与し続けることは現実的ではなく、もしそれを本当に望むのであれば、ホームページで掲げている顧問料とは桁が1つ、2つ違う水準の費用が必要になるはずです。
問題は「それが最初から説明されているかどうか」です。支援体制をあらかじめ明示してくれている事務所であれば、後から「話が違う」とならずに済みます。逆に言えば、契約前にこの点を確認しないまま進めると、後になって担当者との距離感に違和感を覚えるケースも少なくありません。
さらに、もう一点考慮しておきたいことがあります。大手税理士事務所では、担当者がおおむね5年に一度は入れ替わるという現実です。
税理士業界全体を見ると、職員の定着率は決して高いとは言えません。背景にはいくつかの理由があります。簿記や税務知識、窓口対応などの資格・技能はポータブルスキルとして転職市場で評価されやすく、同一事務所に留まるよりも転職を重ねた方がキャリアアップにつながりやすい環境があります。その結果、業界では「担当者はだいたい5年で一回り変わる」と言われており、せっかく関係性を築いた担当者が突然変わってしまうリスクは、大規模事務所を選ぶ際に念頭に置いておくべき点です。
1人税理士の強みと、正しく理解してほしいこと
所長本人との距離の近さが最大の強み
1人税理士の最大の強みは、所長本人が直接担当し続けるという点です。疑問が生じたときにすぐ相談できる、細かな事情を税理士本人がよく把握している、意思決定が速い、柔軟に動いてもらえる、といった点は、開業期の薬局経営者にとって大きなメリットになります。
「担当が途中で変わる」「窓口が職員になってしまう」という大規模事務所特有の悩みは、1人税理士には基本的に生じません。
「1人だと対応できないことがあるのでは?」という不安について
1人税理士に対して、「高度な案件に対応できないのでは」「何かあったときに頼りないのでは」という不安を持たれる方もいます。この点については、正直にお伝えしたいと思います。
確かに、1人事務所がすべての案件を単独で完結させることには限界があります。しかしそれは、大規模事務所も同じです。大手であっても、特定分野は外部の専門家と連携しながら対応しています。重要なのは「規模」ではなく、「必要なときに適切な専門家を動かせるネットワークと判断力があるか」です。
私自身は、M&Aや薬局事業を伸ばすための具体的な対策、社長個人の資産を守るための体制など、薬局経営に必要な論点を幅広くカバーできるよう、提携企業とのネットワークを整えています。万が一、組織再編などの高度な税務論点が生じた場合でも、まず自分自身での対応を最優先に検討しつつ、対応が難しい場合には信頼できる専門家を適切に紹介できるバックボーンを持っています。
つまり、「1人だから何でも自分でやる」ではなく、「1人だからこそワンストップで窓口を一本化し、必要に応じて最適な専門家につなぐ」という体制を意識しています。
薬局開業時に確認したい税理士選びのポイント
規模に関わらず、薬局開業の場面で事前に確認しておきたいことをまとめます。
① 担当者は誰か、税理士本人か職員か 契約後に実際に対応するのが誰なのかを、最初に確認しましょう。税理士資格を持つ担当者かどうか、どの程度の頻度で関与してもらえるかを明確にしてもらうことが大切です。
② 所長・代表税理士はどの程度関与し続けるか 特に開業当初において、代表者本人がどこまで関与し続けるかは重要なポイントです。大規模事務所では、契約後に職員中心の対応へ移行するケースもあります。事前に支援体制を確認しておきましょう。
③ 薬局業界への理解があるか 調剤報酬の体系、処方箋枚数と収益の関係、薬局特有の経費構造などを理解しているかどうかは、実務的なアドバイスの質に直結します。初回面談で業界の話をどれだけ自然にできるかは、ひとつの判断基準になります。
④ 料金と支援内容のバランスは透明か 顧問料の金額だけでなく、「何をやってくれるか」「何は別途費用か」を明確にしてもらいましょう。安さだけを優先すると、必要なサポートが受けられないケースもあります。
⑤ 将来的な課題にも対応できるネットワークがあるか 開業時だけでなく、事業拡大・M&A・資産形成など、将来の経営課題に対しても相談できる体制があるかどうかを確認しておくと安心です。
大手税理士法人が向いているケースとは
ここまで読んで、「では大手が向いているケースはないのか?」と思われた方もいるかもしれません。正直に申し上げると、大規模事務所の方が適している場面も確かにあります。
たとえば、複数の法人を抱えた複雑な組織再編が短期間で必要になる場合や、大規模なM&Aで多数の専門家が同時に動く必要がある場合など、チームとして多くの人員を一度に投入しなければならないケースでは、組織の規模が武器になることがあります。
ただ、薬局を一店舗から地道に育てていく段階では、そこまでの体制が必要になることはほとんどありません。まずは「自分の経営をよく理解してくれる税理士と長期的な関係を築く」ことが、何より大切だと考えています。
まとめ
税理士事務所の選び方に、「大手が正解」「1人税理士が正解」という絶対の答えはありません。ただ、薬局開業という場面で特に意識していただきたいのは、次の点です。
契約後も税理士本人が関与し続けてくれるか
薬局業界への理解と専門性があるか
高度な案件に対応できるネットワークを持っているか
料金と支援内容のバランスが明確か
規模や知名度だけで選ぶのではなく、「この人なら開業後も長く一緒に考えてもらえる」と思える税理士を選ぶことが、結果的に経営の安定につながります。
税理士選びについて迷われている方は、ぜひ一度ご相談ください。薬局業界の実務を踏まえた視点から、率直にお話しさせていただきます。


