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薬剤師のオンコール手当はどう設計するべきか?

  • 10 時間前
  • 読了時間: 5分

はじめに

「薬剤師のオンコール手当の相場って、どのくらいが妥当なんでしょうか?」

顧問先の薬局経営者から、こうした質問を受けることが増えています。在宅調剤に取り組む薬局が増えてきたことで、オンコール体制の整備が現実的な課題として浮上してきたのでしょう。

今回この話題を取り上げたのは、令和八年度の診療報酬・調剤報酬改定をきっかけに、顧問先の薬局でも「これを機に在宅調剤を本格的に強化したい」という声が明らかに増えてきたからです。在宅に力を入れるということは、必然的に時間外の対応も求められる場面が出てくる。そのため、オンコール手当の設計は避けて通れない論点になっています。

在宅調剤に取り組もうとする薬局が、かなり高い確率で直面するのが「薬剤師のオンコール手当をいくらに設定すべきか」という問いです。ところが、調べても明確な答えが出てこない。業界内での統一的な相場感も存在しないため、「結局どうすれば?」と頭を抱えてしまう経営者は少なくありません。


アンケート結果から見えること

先日、X(旧Twitter)で「薬剤師のオンコール手当(待機料)って、一日いくらが妥当だと思いますか?」というアンケートを実施しました。74票が集まった結果は以下のとおりです。



「5,000円以下」が最多の33.8%を占め、「2,000円以下」も24.3%と一定数いる。数字だけ見れば、ある程度回答が割れた印象です。

ただし、このアンケート結果をそのまま「業界の相場」として扱うことには慎重でなければなりません。私のフォロワーには薬局経営者だけでなく、薬剤師個人や他業種の方も含まれています。回答者の属性が混在している以上、この数字は「参考値のひとつ」として見ていただくのが適切です。それでも、「相場感がまったくわからない」という状況よりは、ひとつの手がかりになるかと思い、紹介しました。


なぜ薬局では相場が見えにくいのか

そもそも、薬局業界ではオンコール対応の文化がそこまで一般的ではありませんでした。門前薬局を中心に、多くの薬局は日中の外来調剤を主業務としてきた歴史があります。結果として、賃金の相場も形成されにくい状況にあるのです。

比較対象として、訪問看護業界のケースを見てみましょう。訪問看護の世界では、以前からオンコール体制が一般的であり、調べると「オンコール手当は1,000円〜3,000円程度」とされることが多いようでした。

ただし、この数字をそのまま薬局に当てはめるのは適当ではありません。看護業界ではオンコール文化の歴史が長く、手当の水準もその業界内の慣行として積み重なってきたものです。薬局は業務の性格も、オンコール対応の頻度や内容も異なる。看護業界の相場を参考にしつつも、そのまま流用するのは慎重であるべきでしょう。


オンコール手当を設計する際の考え方

アンケート結果はあくまで参考値であり、業界の正式な相場ではありません。では、自社でオンコール手当を設計する際には、どのような観点から考えればよいでしょうか。私が顧問先と話し合う際には、以下の点を確認するようにしています。

① 競合他社の水準を把握する

同じ地域で在宅調剤に取り組む他の薬局が、どの程度の手当を出しているかは重要な情報です。近隣の相場より明らかに低い水準に設定してしまうと、人材流出のリスクが高まります。薬剤師の採用難が続く現状では、「うちのオンコール手当が安い」という評判は、採用にも影響しかねません。

② オンコール対応の実際の負担を見る

一口にオンコール手当といっても、その「重さ」は薬局によって大きく異なります。待機日数が多いのか少ないのか。実際に出動(対応)する頻度はどの程度か。深夜に呼ばれることはあるのか。日中でも緊張感を持って待機しなければならない拘束感があるのか。こうした要素を踏まえずに金額だけ決めてしまうと、薬剤師から「割に合わない」と感じられてしまうことがあります。

③ 収益性とのバランスを確認する

在宅調剤で得られる収益(加算等を含む)と、オンコール対応にかかるコスト(手当だけでなく、実際の出動に伴う残業代なども含めて)のバランスを確認することも必要です。「在宅をやるほど赤字になる」では薬局を維持することができず、本末転倒ですし、かといってコストを絞りすぎれば人が続きません。経営と人材確保の両面から、持続可能な水準を設計することが求められます。


実際の事例から見えてくること

顧問先や業界の情報から見えてくるケースを紹介します。

在宅訪問の文化が地域に根付いており、複数の薬局がオンコール体制を整えているような地域では、手当を2,000円程度に設定しているケースがあります。地域内で一定の相場感が形成されていれば、過度に高くしなくても薬剤師に受け入れてもらいやすい環境にあるといえます。

一方、地域で自社しか積極的に在宅調剤に取り組んでいないような薬局では、5,000円程度に設定しているケースも見られます。「うちでしかオンコールはやらない」という状況では、薬剤師が感じる特殊性や負担感も大きい。従業員の退職リスクを考慮すれば、それ相応の水準にする必要があるという経営判断です。

つまり、地域性・競争環境・採用状況によって、適正な水準はかなり変わるということです。「業界全体でこの金額が正解」という答えは存在しないのかもしれません。


まとめ:「絶対的な相場」を探すよりも、自社で設計する視点を

オンコール手当の「正解」は、残念ながら一律には出ません。訪問看護業界の相場も、Xアンケートの結果も、あくまで参考の材料のひとつです。

大切なのは、「うちの地域ではどうか」「うちの採用環境ではどうか」「うちの在宅業務の収益構造ではどうか」を丁寧に整理したうえで、経営と人材確保の両面から持続可能な水準を設計することです。

在宅調剤に本気で取り組むなら、オンコール手当の設計は避けて通れない論点です。「安ければいい」でも「高ければいい」でもなく、自社の状況に合った設計を、ぜひ一度しっかり考えてみていただければと思います。

今回の記事が、その検討のきっかけになれば幸いです。


※本記事は調剤薬局経営者向けの情報提供を目的としており、個別の税務・労務相談については専門家へのご相談をお勧めします。

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