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薬局M&Aの現場から見える成功と失敗の分かれ道

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薬局業界は他業種に比べてM&Aが活発な分野です。しかし、実際の現場では「契約前にもう一歩深く確認しておけば…」という後悔も少なくありません。ここでは、買い手・売り手双方の視点から、成功と失敗を分けるポイントを解説します。


1.薬局M&Aの2つの方法

薬局のM&Aには、大きく分けて次の2つの手法があります。


① 事業譲渡薬局の事業のみを譲り受ける方法です。法人格は引き継がないため、過去の経営に伴うリスクを承継しないで済むのが最大のメリットです。ただし、薬局の場合は保健所の開設許可や施設基準の切り替えなど、行政手続きが煩雑になる場合があります。特に売買代金を融資に頼るケースでは行政手続きのスケジュール管理が融資条件になることもあるので、スムーズに引き継げるよう事前準備が欠かせません。

② 株式譲渡既存法人の株式を譲り受け、法人ごと承継する方法です。事業に関する契約や許認可をそのまま引き継げるため、手続きが比較的シンプルになります。一方で、法人に紐付くリスクまで引き継ぐことになる点が要注意です。未払給与、税金や社会保険料の滞納、過去の取引に関する債務などは、前経営者が原因であっても法人が負担しなければなりません。


2.見落としやすい「法人に紐付くリスク」

株式譲渡で特に注意すべきは、契約時点では表面化していない債務です。過去の経営に起因する支払い義務(未払給与や社会保険料、調査で発覚した税金、契約違反による損害賠償など)が、引き渡し後に突然請求されることもあります。このようなリスクを回避するためには、デューデリジェンス(財務・税務・法務の事前調査)を専門家に依頼することが不可欠です。


3.売り手側にも潜む落とし穴

M&Aの注意点は買い手側だけではありません。売り手にとっても、適切な契約条件を整えないことで損失を被るケースがあります。例えば、金融機関からの借入金が残っている状態で法人ごと売却したにもかかわらず、経営者保証を新経営者に切り替えることを契約に盛り込まず進めてしまった場合、新経営者が経営者保証を切り替えなければ、売却後も元経営者が保証人として責任を負い続けることになります。さらに、売却前に法人の現金や資産を引き出してしまい、資金繰りが破綻した事案も昨今のM&A業界では話題になりました。


4.契約書を軽視しない

薬局業界は人間関係や信頼で話が進むことも多く、「口約束でM&Aが成立した」という事例も珍しくありません。しかし、M&Aは金額も大きく、契約後に発覚したトラブルは修正が難しいのが現実です。譲渡条件や債務の取り扱い、引き渡し日、売買価格の支払い方法などは、必ず書面に明記し、双方が納得したうえで契約を交わす必要があります。特に、「何を引き継ぎ、何を引き継がないのか」の線引きは明確にしておくべきです。


5.成功する薬局M&Aのポイント

成功するM&Aには、次の3つの視点が欠かせません。

  1. 事前調査の徹底:財務・税務・法務のデューデリジェンスを行う

  2. 契約条件の明確化:譲渡範囲、債務の扱い、経営者保証などを文書化

  3. 専門家の関与:税理士・弁護士・M&A仲介など複数の専門家でリスクを洗い出す


まとめ

薬局M&Aは、適切な方法と手順を踏めば双方に大きなメリットをもたらします。しかし、法人に紐付くリスクや経営者保証、契約条件の不備といった落とし穴に気づかず進めてしまうと、想定外の負担やトラブルを抱えることになりかねません。「早く話をまとめたい」という気持ちを抑え、十分な調査と契約内容の確認を行うことが、成功と失敗を分ける最大のポイントです。

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