薬局人件費の視点
- ichikawa53
- 8月23日
- 読了時間: 3分

薬局経営において最も大きなコストの一つが「人件費」です。薬剤師の給与は高水準で推移しており、採用競争の激化によって年々上昇傾向にあります。一方で、利益を確保するには固定費の管理が欠かせません。人件費のバランスを誤ると、黒字決算であっても資金繰りが苦しくなるケースもあります。ここでは、薬局経営者が人件費を考える上で押さえておくべき3つの視点と、活用したい補助金制度について整理します。
1.薬剤師給与の水準と採用市場を意識する
薬局経営において最も大きな人件費は薬剤師給与です。現在の採用市場では地域差が大きく、首都圏では年収500~600万円程度が相場である一方、地方では600万円以上を提示しないと人材確保が難しい場合があります。
ただし、給与を相場以上に上げすぎると、固定費が大幅に増加し、利益を圧迫します。給与水準は「地域の採用相場」と「自社の利益構造」を見比べながら、無理のない範囲で設定することが欠かせません。
2.事務員給与と業務効率のバランスを取る
薬局では薬剤師だけでなく、レセプト請求や受付対応を担う事務員の存在も不可欠です。事務員を増やせば薬剤師が専門業務に集中できる一方で、人件費が膨らむリスクがあります。逆に人員を絞りすぎると、薬剤師が雑務に追われ、処方箋応需数や売上に悪影響が出ることもあります。
近年はレセプトコンピュータやクラウド会計などのITツールを導入することで、事務作業の効率化が進んでいます。IT投資と人員配置のバランスを見極めることが、人件費を抑えつつ業務効率を高めるポイントです。
3.社会保険料負担と利益率を見極める
人件費の総額を把握する際に忘れてはならないのが社会保険料の会社負担です。この追加負担が、従業員数が増えれば経営に大きく影響します。
薬局経営においては「給与+社会保険料」を含めた人件費率を常に意識し、売上高に占める割合(労働分配率)をチェックすることが重要です。門前、面、在宅特化であるかによって人件費率は異なります。また地域性や隣の診療科によっても比率は変わってくるので、薬局に詳しい税理士と相談しながらどの水準にするべきか決めるのがいいでしょう。
忘れてはならない補助金制度の活用
人件費を考える際に、あわせて検討したいのが補助金制度です。薬局で活用できる補助金には、従業員の賃金を引き上げたり、新規採用に取り組むことで支給される「人件費系の補助金」があります。
補助金には大きく「設備投資などのモノ系」と「人件費関連のヒト系」がありますが、薬局の場合はモノ系が対象外となることが多く、現実的にはヒト系補助金の活用が中心です。
代表的なものに、キャリアアップ助成金や業務改善助成金などがあります。いずれも人件費負担を軽減できる制度ですが、要件や申請手続きは複雑です。実務的な申請は税理士ではなく社会保険労務士(社労士)が専門となるため、社労士に相談しながら無理のない範囲で活用するとよいでしょう。
まとめ
薬局の人件費を設定する際は、
薬剤師給与の水準と採用相場
事務員給与と業務効率のバランス
社会保険料を含めた総人件費率の把握
この3つの視点を軸に検討することが欠かせません。さらに、国の補助金制度を活用することで、人件費の負担を和らげながら経営の安定を図ることも可能です。
「給与を高くして人を集めたい」という気持ちが先行すると、固定費の膨張で経営を圧迫しかねません。自社の利益構造を冷静に分析し、人件費を戦略的に設定することが、安定した薬局経営への第一歩といえるでしょう。
*本文は2025年8月の情報をもとに構成されています。